FMシリーズの開発コードネーム
はじめに
製品の開発中につけられた別名や愛称、いわゆる開発コードネームは、FMシリーズにも存在しています。あまり表に出てくる性質のものではないため、そのほとんどが不明のままだったのですが、たけがみりうさん、はせりんさん両氏のご協力により、いくつかが判明するに至りました。その経緯、典拠などをまとめてみました。
まず、コードネームが当初から明らかになっていた機種があります。FM77AVがそれで、『Oh!FM』1985年12月号に掲載の「速報 ビジュアルショック FM77AV」という記事のリード中に、『開発コード「Daisy」と呼ばれるこのパソコンは──』と明記されているのです。このためFM77AVのコードネーム「Daisy」は、FMユーザーの多くが知っていたと思います。
さらに、FM77AV40EX/20EXのコードネームも同誌に記載がありました。1991年3月号の読者投稿ページ「READERS' AREA」内の「Q&えっ!?」という質問コーナーでFM TOWNSのコードネームについての質問に対する回答があり、その中で『AV EXがDUNANT』と語られています(ちなみに、FM-16βは「ベティ」、初代FM TOWNSは「TOWNES」、2代目TOWNSのモデルHは「カディス」、同モデルFは「トレド」であるとも明らかにされています)。
私が知り得たのはこれだけで、他の機種についてはまったく手掛かりをつかめませんでした。そのため「FMシリーズ大百科」(旧コンテンツ)のページでは、スペック表にコードネームの項目を設けたものの、そのほとんどが「?」になっているという、情けない状態でした。
あるとき、インターネット上の掲示板で、FM-7のコードネームは「Grace」、FM-8のコードネームは「Helen」であるとの書き込みを見つけました。Graceの頭文字Gはアルファベットの7番目、HelenのHは8番目というのが由来のようです。
書き込みをされた方によると「確証はない」とのことでしたが、ともにFM77AVやFM-16βのコードネームと同じく女性名であることから、ある程度の信憑性はあるのではと判断し、?マーク付きで一応掲載しました。
しかし、その後この情報の元となった記事をアニメーション雑誌『アニメック』で見つけたのですが、それによると、そう呼んでいるユーザーもいるというような話で、富士通側での呼称ではないようでした。
それからはまったく進展がなかったのですが、XM7開発者のたけがみりうさんから多くの情報をいただき、また、はせりんさんからも補足情報をいただきました。両氏によると、F-BASICのディスク上などに痕跡があり、これがコードネームを表わしているのではないか、とのことでした。とても興味深いものでしたので、ここにまとめてみました。
情報、スクリーンショット協力/たけがみりう様、はせりん様
FMシリーズの開発コードネーム一覧
以下に、FMシリーズの開発コードネーム一覧を示します。ただし確定的なものではなく、ある程度の推測も含まれています。不明な部分の情報をご存知でしたら、ぜひお知らせください。
機種名 | コードネーム | 命名法 | 由来 |
---|---|---|---|
FM-8 | FPC-X | - | Fujitsu Personal Computer-X? |
FM-7 | FM-8Junior | - | FM-8のジュニア版 |
FM-11ST | ? | - | ? |
FM-11AD | ? | - | ? |
FM-11EX | ? | - | ? |
FM-X | ? | - | ? |
FM-11BS | ? | - | ? |
FM-11AD2 | ? | - | ? |
FM-NEW7 | ? | 女性名? | ? |
FM-77 | Janet | 女性名 | ? |
FM-11後継機(未発売) | Nancy | 女性名 | ? |
FM-16βFD/HD | Betty | 女性名 | ? |
FM16βSD | Alice | 女性名 | ? |
FM16π | Helen | 女性名 | ? |
FM16β多色版(未発売) | Cathy | 女性名 | ? |
FM-11AD2+ | ? | 女性名? | ? |
FM-77L4 | ? | 女性名? | ? |
FM-77L2 | ? | 女性名? | ? |
FM77AV | Daisy | 女性名 | ? |
FM77AV20 | Leo1 | ノーベル賞受賞者 | Leo Esaki? Leo James Rainwater? |
FM77AV40 | Leo2 | ノーベル賞受賞者 | Leo Esaki? Leo James Rainwater? |
FMR(初期ラインナップのどれか) | Lorentz | ノーベル賞受賞者 | Hendrik Antoon Lorentz? |
FMRシリーズ | ? | ノーベル賞受賞者? | ? |
FM77AV20EX | Dunant1 | ノーベル賞受賞者 | Jean Henry Dunant |
FM77AV40EX | Dunant2 | ノーベル賞受賞者 | Jean Henry Dunant |
FM77AV40SX | ? | ノーベル賞受賞者? | ? |
FM TOWNS 1/2 | Townes | ノーベル賞受賞者 | Charles Hard Townes |
FM TOWNS 1H/2H | Cadiz | 地名 | スペインの都市 |
FM TOWNS 1F/2F | Toledo | 地名 | スペインの都市 |
FM TOWNS 10F/20F/40H/80H | Lisbon | 地名 | ポルトガルの都市 |
FM TOWNS CX | LeMans | 地名 | フランスの都市 |
FM TOWNS UX | Monaco | 地名 | モナコの都市 |
FM TOWNS HR | Adelaid | 地名 | オーストラリアの都市 |
FM TOWNS HG | Estoril | 地名 | ポルトガルの都市 |
FM TOWNS UG | Monza | 地名 | イタリアの都市 |
FM TOWNS UR | MonzaSP | 地名 | イタリアの都市 |
FM TOWNS MARTY | SilverStone | 地名 | イギリスの都市 |
FM TOWNS MX | Bremen | 地名 | ドイツの都市 |
FM TOWNS MA | Hameln | 地名 | ドイツの都市 |
FM TOWNS ME | Parma | 地名 | イタリアの都市 |
FM TOWNS MF | Parma33 | 地名 | イタリアの都市 |
FM TOWNS Ⅱ HA/HB/HC | Lasa | 地名? | ? |
FM TOWNS Ⅱ EA | Elba | 地名? | ? |
FM TOWNS Ⅱ Fresh・E/T/ES/ET/FS/FT | Elba | 地名? | ? |
FM TOWNS Ⅱ SN | Azteca | 地名? | ? |
FM TOWNSアプリケーションカード | Daytona | 地名 | アメリカの都市 |
FMV-TOWNS | Cairns | 地名 | オーストラリアの都市 |
FMV-TOWNS H20 | Dakar | 地名 | セネガルの都市 |
各機種のコードネームの詳細
FM-8FPC-X
FMシリーズの開発者のお一人である、あのYAMAUCHI氏が2ちゃんねるに降臨したときのログからの情報、とのことでした。FM-8の仕様書に「FPC-X」と書かれているようです。また『FM-8活用研究』(工学社)の250ページに、『FPC-Xでは、中央処理装置の負荷を軽減するためにDisplay、Keyboardの制御を専用のプロセッサで行います。』という記述があります(ただし第2版以降は当該部分は「FM-8」に修正)。FはFujitsu、PCはPersonal Computerでしょうか?
FM-7FM-8Junior
『FM-7/8活用研究』(工学社)に掲載の「FM-7 サブシステム・モニタ ソース・リスト」の先頭コメントに「JR. VERSION」の表記がある、とのことでした。
見ると、確かに
AUG. 9 1982 SUB-SYSTEM2 V6.0 JR. VERSION
CODED BY M.YAMAUCHI
とあります。
FM-7は「FM-8の弟分」という呼ばれかたもしていましたが、それに近いニュアンスを表わしているコードネームといえます。
FM-77Janet
F-BASIC V3.0 L2.0のシステムディスクに収録されているSYSUTY(システム定数テーブルの設定を行なうプログラム)のリスト先頭のコメントにその名残がある、とのことでした。
見ると、20行に
FOR FM-JANET
とあります(ただし、F-BASIC V3.5では修正されているそうです)。
JANETは女性名ですので、その後の各機種のコードネームとも符合します。FM-77発売に伴って登場した専用のMIDIアダプタ、Z80カード、I/O拡張ユニットの型番に「J」の文字がついているのは、このためのようです。
FM77AVDaisy
FM77AV40 / FM77AV20Leo
FM77AV20に付属の入門ディスクに収録されているM.MENU(メインメニュー)のリスト中に痕跡がある、とのことでした。
1300行に
LEO's AV
とあります。コードネームの命名法が、この時期に女性名からノーベル賞受賞者に移行したと思われます(LEO=Leo Esaki、もしくはLeo James Rainwater)。
また、F-BASIC V3.3 L30/V3.4 L20のシステムディスクのSTARTUPプログラムにも「LEOSUB」という変数名があり、AV40シリーズの拡張サブシステムの種別判定に使われています(132,176-180行)。
なお、後述のF-BASIC V3.3 L30/V3.4 L20では、機種ID名を格納する変数名としてAV20EXは「DUNA1」、AV40EXは「DUNA2」と表わされているので、AV20は「LEO1」、AV40は「LEO2」というコードネームであるとも考えられます(下位機種から番号を振っていくという命名方法は、末期のFM TOWNS Ⅱにも見られます)。
FM77AV40EX / FM77AV20EXDunant
命名法について
上の表を見ると、FM-NEW7/77あたりからコードネームが欧米の女性名になっています。このあとしばらくは、この命名法によって名づけられたようです。この期間に含まれるFM-77L4/L2のコードネームも、女性名になると思われます。これらの名前が何に由来しているのかは不明ですが、すべて5文字の名前となっている点に規則性が見出せます。また頭文字が重複していないので、そこも意識して命名していたのでしょう。
この後FM77AV40/20あたりからは、女性名からノーベル賞の受賞者名に変更されたようです。この期間に含まれるFM77AV40SXのコードネームも、ノーベル賞受賞者になると思われます。
そしてFM TOWNSのモデルHからは、世界各地の地名となりました。これは、モータースポーツのサーキットのある都市やサッカークラブのある都市が由来となっているようです。
FM TOWNS Ⅱは地名のようでもあるのですが、よくわかりません……。