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サザンクロス
- 1984年
研究コラム/サザンクロス
「サザンクロス」は100以上の画面を持ち、波瀾万丈のストーリー展開で人気のあったアドヴェンチャーゲームでした。私も楽しんでプレイしましたが、発売元がバンダイというのが意外でした。バンダイはこれ以前にアクションゲームやシミュレーションゲームは出していましたが、アドヴェンチャーゲームはこれが初めてで、おそらく唯一のものです。バンダイのラインアップを見るとキャラクターものが多いのですが、これはそれに当てはまりません。バンダイの作品としては異質な存在ともいえるでしょう。なぜこれだけの大作をいきなり出した(出せた)のでしょう?
このゲームをプレイした人は、ハドソンソフトのアドヴェンチャーゲーム、「デゼニランド」と「サラダの国のトマト姫」を思い起こしたかもしれません。実際両者の雰囲気はよく似ていて、『パソコンゲームの達人』(秀和システムトレーディング/1991年発行)では『ハドソンアドベンチャーのそっくりさん』と紹介されていますし、『チャレンジ!!パソコンアドベンチャーゲーム』(電波新聞社/1987年発行)では『「サラダの国のトマト姫」に勝るとも劣らない』と引き合いに出されています。
印象だけでなく、当時は少なかったオールマシン語のアドヴェンチャーゲームであるという点や、「START」と打ち込んでゲームを開始するという点も共通しています。さらにマニュアルを見ると、ロード方法や注意書きの文章がまったくといってよいほど同じなのです。ここまでそっくりだと、両者にはなんらかの関係があると思わずにはいられません。

「デゼニランド」のマニュアルより

「サザンクロス」のマニュアルより
もちろんバンダイが、当時人気だったハドソンのアドヴェンチャーゲームを参考にしてゲームやマニュアルを作ったと考えることもできます。しかし、そもそもバンダイが自社でゲーム開発を行なっていたかはあやふやです。たとえば「キン肉マン」は木屋通商が制作したものらしいですし(プログラムリストを見るとわかる)、「仮面ライダー」もその可能性があります。「サザンクロス」も、どこかのソフトハウスに発注して発売したと考えれば、バンダイがこれだけの大作を発売できたのもうなずけます。
そこで浮かんでくる開発元がハドソンというわけですが、それを裏付ける確実な証拠はありません。ただ、コマンドにそのヒントがあります。「ハドソン ミル」というコマンドを入力すると、そこに「ハドソン」があるわけでもないのに「トクニ カワッタトコロハ アリマセン」という反応があります。試しに「エニックス ミル」と入れると、「エニックス ミル ト イワレテモ ワカリマセン」と拒否の反応が返ってきます。つまり「ハドソン」という単語が登録されているというわけです。
ダンプリストを眺めてみると、「ハドソン」(HUDSON)、そして「ハドソンビル」(HUDSON BIULDING(ママ))という2つの単語が確認できます。
もちろん、たとえば「ハドソン」という人物や「ハドソンビル」という建物がゲーム中に出てくるのなら不思議ではないですが、おそらく登場はしていません。これは、制作を行なったハドソン側が意図的に登録したとは考えられないでしょうか。
さらにダンプリストには、「HUDSON SOFT ADB FILES GAME DATA」という一文も見つかりました。「HUDSON SOFT」としっかり入っていますので、これは偶然とは思えません。これが何を示すのかは不明ですが、データファイルのフォーマットか何かでしょうか?
というわけで、「サザンクロス」はハドソンが制作した作品であると思われます。ただ、疑問が残らないわけではありません。発売時期が「サラダの国のトマト姫」とそれほど離れていないため、他社から似たようなアドヴェンチャーゲームを出すことは、自社作品の売り上げに影響を及ぼすのではないか?ということです。
当時ハドソンは、「沖縄トロピカルアドベンチャー」、「東海道アドベンチャー」といった作品を制作していたらしいので(結局未発売)、「サザンクロス」もそれらと同時期に開発されていた作品なのかもしれません。だとしたら、思ったほどのクォリティーではなく、ボツ作品とするはずだったこの作品を、ハドソン側からバンダイに売り込んだという可能性も考えられるでしょう。それが予想以上の評価を受けたのかもしれません。
いずれにせよ、ハドソンソフトがなんらかの形で関わっていたのは間違いないと思います。